長野県飯山市に、十割のそば粉に、オヤマボクチ(雄山火口)と言われるヤマゴボウの葉の繊維をわずかにつなぎに使った色の濃い腰の強い幻の蕎麦と言われる「富倉そば」がある。新潟との県境に有る豪雪地帯の農家に伝わり、他では口にすることが出来なかったと言うところから幻の蕎麦と言われる。
1年半程前に、全国各地から蕎麦好きが訪れるという地元の有名店「とみくら食堂」へ行った。確かに店(農家の居間)には行列が出来ていたが、蕎麦はひどい物でした。きしめんの様な幅広から、そうめん位の細さまで太さはバラバラ、長さブツブツのうえ、煮込み蕎麦じゃないんだからという程のやわらかさで、腰の強さなどみじんも感じられなかった。
これが地元の富倉そばのすべてでないことを信じ、今回別のお店を食べ歩いてきた。
1軒目は「はしば食堂」(写真上:二人前)、お婆ちゃんが一人でやっていたお店だが、有名になり人が来るようになって息子夫婦も一緒にやっていたが...厨房を覗くと茹で時間が長いのでビックリした!言うまでも無く、色の白い腰のない蕎麦でとみくら食堂と五十歩百歩。またしても裏切られた思いでした。
口直しに、2軒目「かじか亭」へ。ここは周辺の農家で打った蕎麦を集めて提供しているお店と聞いているが、蕎麦の色は濃く、太さも揃っていて雑な物では無かった。はしば食堂の半分くらいの茹で時間だろうと想像できるが、それでも噂の腰が強い蕎麦とは言い難かった。
どうも、地元の人はお年寄りが多く、柔らかく茹でた方が好まれると聞いたが、これでは幻の富倉そばの噂を聞いて遠くから食べに来た人達がガッカリするのもうなずける!
その晩泊まった戸狩温泉の「リフレイン・福沢」と言う宿の奥さんが、地元のそば粉100%で打ってくれた富倉そばは、非常に腰が強くこれはもう絶品でした。
商売にしているプロではないので、いつも同じようにうまく打てるとは限らないし、今日はあまり細く切れなかったと謙遜していたが、今までの有名店のお蕎麦は何だったのかと思うほどの美味しさでした。
翌日、今は富倉地区より離れた町中にある「富倉そば」に行った。スキーシーズン以外はそれ程混んでなく地元の蕎麦好きが常連客と言った感じの店でしたが、元々富倉そばという物を世に知らしめたと自負する親父さんのやっている店だけあって、蕎麦の色、太さ、歯ごたえは他の数軒の有名になったお店に比べてこの店が一番美味しかった。
私の個人的な好みからすると、あと少し茹で時間を短く歯ごたえを強くしてくれたらもっと良いと感じたけど...
翌日、旅行の最終日に自宅に帰る直前に、毎週のように通っている神奈川県川崎市多摩区の府中街道沿いにある、たぶん北信州以外での専門店はここだけと思われる「とみくら」に寄って、改めて富倉そばを食べてみた(写真上:一人前)。
ここの主人は現地で修行し、今でも現地で蕎麦の実を自家栽培しているこだわりの蕎麦屋だけに、非常に腰の強い、独特の歯ごたえの蕎麦で、結局、車で750km走って2日間掛けて食べて歩いてきた現地のお店に比べてすべての点でここの富倉そばが上でした。
現地のお店での食べ歩きの結果は残念でしたが、一番近くで一番美味い富倉そばが食べられると言うのは不思議でもあり嬉しくもあるという気分です!